「一汁一菜」が映える。漆器の魅力

漆

忙しない日々のなかで、ほんのひととき、自分のためにご飯をよそう時間があるだけで、心がふっと落ち着く瞬間があります。
そんな何気ない日常の一場面に、漆器の器があると、不思議と空気がやわらかくなるような気がします。

漆器は「特別」じゃない

漆器というと、正月や祝いの席に使うような、ちょっと敷居の高い器のように感じていた時期が私にもありました。

けれどある日、旅先の宿で出された朝食が、漆の椀と小鉢で整えられていて。
その器を手に取ったときの「軽さ」と「肌になじむ感じ」に驚いたのを覚えています。

思えば昔の家庭では、汁椀といえば漆が当たり前だった時代もありました。
日々の道具として、ちゃんと生活に根づいていたのです。

一汁一菜にこそ、映える

漆器の一番の魅力は、その佇まいの美しさ。
たとえば、白いごはん、味噌汁、焼き魚にお漬物。そんな「一汁一菜」の食卓も、漆の器がひとつあるだけで、どこか凛とした印象になります。

見た目の上品さはもちろんですが、汁物を入れても熱が伝わりにくく、手に持ったときのあたたかさが心地よい。
ごはん茶碗としても、小鉢としても、料理の種類を選ばず自然になじむのが漆器のよさです。
和食はもちろん、煮込みハンバーグやクリームスープにも意外と合いますよ。

手入れは、思っているよりずっと簡単

「扱いが難しそう」という声もよく聞きますが、実際にはそこまで繊細なものではありません。
洗うときは中性洗剤でやさしくスポンジ洗い、たわしや漂白剤は避ければOK。
水気を布で拭いてしっかり乾かすだけで長持ちします。

食洗機や電子レンジはNGですが、そのぶん器と向き合う丁寧な時間が生まれるのも漆器の魅力かもしれません。

「いつもの器」をひとつだけ変えてみる

いきなりすべての器を漆にする必要はありません。
まずは毎日の汁椀から。
あるいは、朝のヨーグルト用に、小ぶりの漆椀を取り入れてみてもいいかもしれません。
器を変えると、料理の見え方が変わり、盛りつけがちょっと楽しくなったりします。
不思議と、食べる姿勢まで整ってくるから面白いものです。

日々の器に、ほんの少しの「静けさ」を

暮らしの中には、目立たなくても、心を整えてくれるものがいくつかあります。
私にとって漆器は、そのひとつ。
日々の喧騒から少し距離を置いて、自分を真ん中に戻すきっかけをくれる道具です。

お気に入りの器がひとつあるだけで「今日は何をよそおうかな」と思える。
その小さな楽しみが、暮らしを少し豊かにしてくれるのかもしれません。